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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)18631号 判決 1989年7月18日

原告 木村芳

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 森田博之

同右 斎藤暢生

被告 株式会社 ランド・エース

右代表者代表取締役職務代行者 磯邊和男

右訴訟代理人弁護士 増田亨

同右 髙橋順一

被告補助参加人 木島高昭

右訴訟代理人弁護士 高木壯八郎

同右 齋藤雅弘

主文

一  被告株式会社ランド・エースを解散する。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同趣旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1(1)  被告は、昭和四五年一月二七日に設立された資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、その発行済株式の総数は、六万株である。

(2) 被告は、土地・建物の売買及びその媒介、宅地の造成、不動産の管理、金融、ホテル・飲食店の経営などを目的としている。

2(1)  昭和五九年四月ころまでは、被告の株式は、木村家(亡木村倫一郎・六〇〇〇株、その妻である原告木村芳・六〇〇〇株、その子である原告木村慎太郎、同木村公史、同木村宣也・各六〇〇〇株)が合計三万株、木島家(補助参加人・二万株、その母である木島ケイ・八〇〇〇株、その妻である木島光子・二〇〇〇株)が合計三万株と、両家が半数ずつを保有していた。

(2) また、当時、被告の代表取締役は、木村家から亡木村倫一郎がなり、木島家からは補助参加人がなっており、両家から同数の役員を出して、役員報酬の支払という方法により、原則として、被告の利益が両家に平等に分配されるように配慮していた。

3(1)  木村倫一郎は、昭和五九年六月一四日に死亡した。

(2) そして、亡木村倫一郎の保有していた株式は、その子である原告三名が二〇〇〇株ずつ相続する旨相続人である原告らの間で遺産分割協議が成立した。

(3) したがって、原告らは、現在、被告の株式を合計三万株有している。

4(1)  しかるに、補助参加人は、木村倫一郎の死後、昭和五九年五月九日に同人からその保有する株式のうち二〇〇〇株(以下「本件係争株式」という。前記遺産分割協議において原告木村宣也が相続するものとされた。)の譲渡を受けており、木島家側が過半数の三万二〇〇〇株を有していると主張するに至った。

(2) また、補助参加人は、昭和六〇年二月二八日、木村家側になんらの連絡をすることなく株主総会を開催し、木島家側が過半数である三万二〇〇〇株を有するとして、原告木村慎太郎を取締役から、原告木村芳を監査役から解任する旨の決議及び木島家側から木島恵理子を取締役に選任する旨の決議を行った。

(3) さらに、裁判所による右決議の取消以降、補助参加人は、自ら代表取締役として招集した株主総会において、いずれも、木島家側が過半数の三万二〇〇〇株を有するものとして、これを否定する原告らの意見を入れず、木島家からのみ役員を選出し、また、原告らに対し会計帳簿・書類の閲覧もさせず、木村家の者を被告の経営から完全に排除している。

5(1)  したがって、原告らは、役員報酬としても、また株式の配当金としても、なんら被告の事業による利益を享受できないでいる。他方で、木島家側は、木島家側の役員の報酬を増額し、また、亡木村倫一郎に対しては、なんらの退職金の支払をしないにもかかわらず、取締役であった木島ケイに対しては三〇〇〇万円の退職金の支払をしている。

(2) そこで、原告木村宣也は補助参加人を被告として本件係争株式につき確認の訴え(当庁昭和六〇年(ワ)第三八五四号)を提起し、また、本件被告を被告として取締役選任決議等の取消しの訴え(当庁昭和六一年(ワ)第三〇六二号)を提起し、原告木村慎太郎は本件被告を被告として取締役選任決議等の取消しの訴え(当庁昭和六二年(ワ)第八一八三号)を提起し、いずれも、第一審において勝訴した。

6(1)  補助参加人は、昭和六三年二月、時価一〇億円と評価される池袋所在の被告所有ビル(鉄骨九階建てビル、四〇坪の借地権付き)を自己が代表取締役をしている株式会社ウイニング(以下「ウイニング」という。)に約三億円で売り渡す旨の契約を締結し、移転登記を終えている。

(2) また、補助参加人による業務執行の結果、被告会社は、昭和六三年八月三一日現在で約七一億六〇〇〇万円の銀行等からの借入金債務(総借入金から預金その他の債権を控除した残額)があり、しかも、そのうちの約六六億円が被告から補助参加人が代表取締役をしている訴外株式会社ウイニングに貸し付けられており、補助参加人が株式会社ウイニングの代表取締役として、被告に対し借入金元金及びその利息の支払をしないので、被告は、右借入金の返済ができず、破産の危機に直面している。

7  以上のような次第で、原告ら木村家側と補助参加人を中心とする木島家側との間には、被告の経営をめぐって深刻な意見の対立があり、木村家側の木島家側に対する不信は極めて根強いので、木村家側と木島家側が被告を共同して経営することは不可能であり、その結果、補助参加人が被告の経営を継続するとすれば、被告に回復しがたい損害が生じるおそれがあり、また、被告代表者としての補助参加人による会社財産の管理・処分が著しく失当である結果、被告の存立を危うくすることは、明らかである。

8  よって、原告らは、被告の発行済株式総数の一〇分の一以上を有する株主として、被告の解散を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  補助参加人

(1) 第1項及び第2項の事実は、認める。木村倫一郎の生前、被告の営業を実質的行っていたのは、補助参加人であり、被告の営業上の成功は、補助参加人の働きにおうところが大きい。

(2)① 第3項(1)の事実は、認める。

② 同項(2)の事実は、知らない。

③ 同項(3)は、争う。

(3) 第4項の事実は、認める。しかし、それは、木島家側が被告の発行済株式の過半数を有することから来る当然の結果であって、これが不当であるとすることはできない。また、木村家側を経営に関与させないのは、木村倫一郎の死後、木村家側が非協力的な態度をとったからである。

(4) 第5項の事実は、認める。木島ケイに対する退職金の支払は、合理的根拠を有する。原告らは、補助参加人が本件係争株式を亡木村倫一郎から譲り受けたことを不当に争って、各訴訟を提起したものである。

(5)① 第6項(1)の事実は、そのうち、補助参加人が被告の代表者として、被告の不動産を株式会社ウイニングに売り渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

② 同項(2)の事実は、そのうち、株式会社ウイニングの債務の額は認めるが、その余は否認する。

(6) 第7項の事実は、否認する。補助参加人(木島家側)は、本件係争株式の帰属が訴訟において確定したときは、それに従った経営を行う用意があり、木村家と木島家との間に経営上の合意が得られない場合でも、株式の買取や資産の譲渡等、他の方法により解決することができるので、被告を解散する以外に被告の窮境を打開できない状況にあるとは言えない。

(7) 第8項は、争う。

二  被告

(1)  第1項、第2項、第3項(1)、第4項及び第5項の事実は、認める。

(2)  第6項の事実は、知らない。

(3)  第7項の事実は、知らない。

(4)  第8項は、争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一1  請求の原因第1項、第2項、第3項(1)、第4項及び第5項の事実は、当事者間に争いがなく、第3項(2)の事実は、《証拠省略》によりこれを認めることができる。

2  また、《証拠省略》によると、請求の原因第6項の事実(一部争いのない事実を含む。)を認めることができる。

二  次に、本件係争株式が亡木村倫一郎から補助参加人に譲渡されたかどうかについては、補助参加人が丙第一号証として提出した「臨時株主総会議事録」の成立が最も大きな争点であるが、補助参加人が、当庁昭和六〇年(ワ)第三八五四号株主権確認請求事件において、被告本人として、宣誓の上、「丙第一号証は、昭和五九年五月九日に作成されたものである旨」「丙第一号証は、被告本店において作成されたものである旨」の各供述をしたことは、当裁判所に職務上顕らかであるところ、《証拠省略》によると、右各供述は、いずれも補助参加人が意識的に述べた虚偽の供述であったことが認められる。また、補助参加人は、右事件において、「被告の株式については、本件係争株式の譲受けの後、木村倫一郎の生存中に株券を作成し、本件係争株式の株券と木島家側の株券は自己が保存し、木村家側の株券は亡木村倫一郎に交付した旨」の供述をしたことも当裁判所に職務上顕らかであるが、《証拠省略》によると、これらの株券はいずれも、木村倫一郎の死後、木村家側と木島家側とが紛争状態になってから補助参加人が作成したものであることが認められるので、株券に関する右供述も、意識的に述べた虚偽の供述であったことになる。これらの点と丙第三号証の一(証人木島光子の証言調書)の記載内容とを併せ考えると、丙第一号証は、丙第二号証(「取締役会議事録」と題する書面)に記載されている補助参加人の借入に関連して作成されていた書面(例えば、念のために株主総会議事録用として署名・押印していた書面、あるいは、誤って作成し、途中で廃棄することとしていた書面)を利用して、補助参加人において、妻木島光子に記載・完成させた疑いが極めて濃厚というべきであり(木島光子が作成日付を「3月1日」から「3月9日」に変更したというのは、むしろ、丙第一号証と丙第二号証の密接な関連性を隠蔽するためであった可能性が強い。亡木村倫一郎がそのような日付の変更を要求する理由は考えられない。)、補助参加人は、本件係争株式の補助参加人への譲渡がないにもかかわらず、被告の経営権を木島家側で独占するために本件係争株式の補助参加人への譲渡を仮装したものと認めるのが相当である。

三  以上、一、二において判示したところによると、被告は、木村家と木島家が半額ずつ出資し、その経営及び利益配分も両家平等という前提で経営されてきた株式会社であるところ、木村家側の代表取締役であった木村倫一郎の死後、木島家側の代表取締役である補助参加人が木村倫一郎の生前に本件係争株式を同人から譲渡されたので木島家側が過半数を有しているとの虚偽の事実を主張して、木村家側を被告の経営からも、また、被告の経営による利益の享受からも排除していることになる。

ところで、右に認定した事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告ら木村家側の木島家側に対する不信は極めて強度なものと認められるので、今後、両者が共同して被告を経営することは到底期待することはできず、木村家側が三万株、木島家側が三万株と、両家が被告の株式を五割ずつ保有している状況の下においては、株主総会における取締役の選任により被告の業務執行の決定機関である取締役会を新たに構成することはできないというべきである(係争事件がすべて解決すれば、木村倫一郎が死亡した時点での役員構成に戻ることになるので、補助参加人が代表取締役の権利義務を、原告木村慎太郎及び木島ケイが取締役の権利義務を有することになる〔《証拠省略》による。〕。)。そうすると、前示のように補助参加人が木村家側を排除し、自己の経営する株式会社ウイニングのために恣意的に被告の経営をし、支払不能の状況に陥らせている状況からすれば、被告は、業務の執行上、著しい難局に逢着しており、また、被告に回復することができない損害が生ずるおそれがあることは明らかといわなければならない。

なお、《証拠省略》によると、被告は、平成元年三月末日をもって支払不能の状態に陥ったこと、その主たる原因は、補助参加人がみずから株式会社ウイニング(代表取締役は補助参加人)に貸し付けた金員の返還及び利息の支払をしないこと、被告から新宿カプセルホテルの経営委託を受けている株式会社ケイアンドティー〔代表取締役は補助参加人〕が被告に対し約定どおり売上金の送金をしないことにあることが認められるので、被告としては、補助参加人に対し、取締役としての忠実義務違反を理由とする損害賠償請求をするなど、早急に補助参加人の責任追求をすることが必要となることも予測されるので、原告らは、その点からも、被告の解散判決を求め、裁判所の選任する清算人(商法第四三〇条第一項、第一二二条、第九四条第六号)により、被告の清算を行う必要がある。

四  よって、原告らの請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治)

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